電子識別システムおよび企業への影響
ベトナムの国家機関は現在、紙の書類による管理および事後的な実施状況の確認という従来の管理方式から、リアルタイムでのモニタリングおよび国家データシステムに基づく管理方式への移行を積極的に進めている。この傾向により、企業のあらゆる法的行為が国家機関のデータシステム上に記録される、緊密かつ一元的な管理体制が構築されつつある。具体的には、企業の設立、企業登録・投資登録内容の変更、従業員の採用、電子契約の締結、税務申告および強制社会保険の申告から、企業の解散に至るまでが対象となる。
これは、企業管理の効率化につながる一方で、事業活動に関する各種法令・規定を遵守するうえでの課題にもなる。しかし、企業が上記のプロセスを開始するためには、データの初期登録にあたる手続きとして、企業の電子識別を行う必要がある。
本稿では、現在の急速な技術発展を背景として、電子識別に関する法令の変更および企業への影響について分析する。
1. 2023年から2026年までの企業の電子識別システムの発展
2023年以降、電子識別に関する法令の枠組みおよびその実施方法の変化がより明確になっている。具体的には、以下のとおりである。
1.1 法令について:
2023年身分証明法は2014年国民身分証明法に代わり、電子識別および電子認証に関する政令69/2024/NĐ-CP(以下「政令69」という。)は政令59/2022/NĐ-CPに代わるものとなった。また、2020年企業法(2025年改正・補足)および政令168/2025/NĐ-CP(以下「政令168」という。)は、企業登録に関する政令01/2021/NĐ-CPに代わるものとなった。
1.2 国民身分証明カードに使用される技術について:
バーコード付き国民身分証明カードは、指紋や虹彩等の生体情報を記録する電子チップを搭載した国民身分証明カードへと変更された。これにより、多要素認証(MFA)、近距離無線通信(NFC)、生体認証(Biometrics)等の方法による本人確認が可能となり、セキュリティの向上が図られている。
1.3 各法令に基づくオンライン行政手続き用アカウントシステムについて:
従来は、個人および企業に対して複数のシステムからそれぞれ異なる種類のアカウントが付与されていたが、現在は、国家公共サービスポータルを中心とする統一的なシステム(関連する各プラットフォームを通じて運用される。)へと移行している。また、オンライン行政手続きへのログインおよび手続きの実施には、政令69第9条に基づき公安省が発行する電子識別アカウント(VNeID)のみを使用することとなっている。
以上のとおり、ベトナムにおける電子識別に関する法政策の変化は、現在の技術発展のスピードに合わせて進められていることが分かる。しかしながら、企業にとって法的リスクとなり得るいくつかの問題が依然として存在しており、これらについては本稿の第II部において分析する。
2. 電子識別システムが企業活動に与える影響および生じる問題
2.1 電子識別システムが企業に与える影響
2.1.1 国家管理上の要求事項の遵守について:
本質的に、電子識別は、オンライン上における企業の「電子身分証明」としての役割を果たすものである。企業の電子識別アカウントが電子識別システムと接続されることにより、企業は国家機関の管理下に置かれた情報ネットワークへの参加が可能となる。
また、国家機関は、上記第I部(c)に記載したとおり、システムおよびアカウントを統一して使用することを義務付ける政策により、このプロセスを実現している。システムおよびアカウントが統一されることにより、企業活動に対する国家機関の検査・監督能力が向上することとなる。
2.1.2 行政手続きについて:
以下の表は、企業において一般的に発生する一部の行政手続きおよび法的義務に対する電子識別システムの影響度をまとめたものである。
表1.企業の一部の手続きおよび活動に対する電子識別システムの影響度
手続き/内容 |
電子識別システムによる影響度 |
備考 |
ERC-企業登録証明書 |
○ |
書類提出前に、法定代表者のレベル2電子識別アカウントを使用して、申請書をオンラインで承認する必要がある。 |
IRC-投資登録証明書 |
x |
現時点では導入予定はない。 |
WP-労働許可証 |
x |
現時点では導入予定はない。 |
ビザ/TRC |
o |
出入国管理および在留に関するオンラインシステムへのログインには、企業の電子識別アカウントを使用する必要がある。 |
税務 |
○ |
電子税務取引における本人確認および手続きに関連する。 |
社会保険 |
△ |
企業の電子取引の実施に関連する。 |
電子インボイス |
x |
現時点では、電子インボイスの作成、発行および送付手続きにVNeIDを直接統合する規定または計画はない。 |
税関 |
○ |
企業の電子税関手続きにおける本人確認および手続きの実施に関連する。 |
電子署名 |
x |
現時点では、電子署名をVNeIDに置き換える規定または計画はない。 |
銀行/法人口座 |
△ |
企業または法定代表者が一部の取引および銀行手続きを行う際の本人確認に関連する。 |
注記:
○ = 直接的な影響あり
△ = 関連あり/間接的な影響あり
× = 現時点では直接的な影響は確認されていない
以上から、電子識別システムによる影響度は、すべての手続きにおいて一律ではないことが分かる。一部の手続きでは、電子識別アカウントが取引を行う主体の本人確認のために直接使用される一方、その他の手続きでは、主に法定代表者の本人確認または国家管理システム間のデータ連携を通じて影響が生じる。
2.1.3 企業の内部管理について
企業の電子識別アカウントは、国家規定の遵守という観点から企業に影響を与えるだけでなく、法定代表者のレベル2個人電子識別アカウントと連携する仕組みとして設計されているため(詳細は下記第2項(b)において分析する。)、企業の内部管理体制にも一定の影響を与える。具体的には、以下のとおりである。
(i) メリット
企業が国家機関に対して行う多くの手続きまたは取引、例えば、国家企業登録ポータル上の情報変更、電子インボイスの利用登録、VNeIDアプリを利用した税務申告等については、法定代表者本人による直接の確認・承認または権限付与が必要となる。そのため、企業は、従来のように各国家機関のシステム上で作成されたアカウントを個別に管理するのではなく、企業の電子識別アカウントを通じて、アカウントの管理体制を構築し、国家機関に対する手続き・取引の実施状況を確認・管理することが可能となる。
(ii) デメリット
一方、2種類の電子識別アカウントが連携する仕組みにより、企業の法定代表者が不在となった場合、連絡が取れなくなった場合、またはVNeIDアプリ上で企業の電子識別アカウントの引継ぎ手続きを行わなかった場合には、企業の電子識別アカウントにアクセスできなくなる可能性がある(詳細は下記第2項(d)において分析する。)。
また、複数の法定代表者を有する企業の場合には、企業の電子識別アカウントの管理権限をめぐり、社内で紛争が生じる可能性もある。
2.2. 企業の電子識別を実施する際に生じる問題
2.2.1 企業の電子識別を実施しない場合の法的リスクおよび行政手続き上の制限
政令69に基づく企業の電子識別を実施しないことについて、現時点では、この行為を直接処罰する制裁を定めた法令はない。しかし、ホーチミン市、ハノイ市、ダナン市等、情報技術インフラが十分に整備されている地域では、企業は税務申告および社会保険に関する手続きを電子的方法により実施することが義務付けられている。
一方、現在、システムおよび関連規定は2019年税務管理法から2025年税務管理法への移行段階にあるため、企業は従来のアカウントおよび電子署名を使用して電子税務システムにアクセスすることが可能である。しかし、今後の動向を踏まえ、企業は電子識別および企業の電子識別アカウントの取得を速やかに完了する必要がある。
今後、企業の電子識別アカウントを保有していない場合、税務申告および強制社会保険料の納付ができなくなり、その結果、税務申告書の提出遅延または強制社会保険料の納付遅延が生じる可能性があるため、注意が必要である。
したがって、企業の電子識別を登録していないこと自体について直接処罰を受けない場合であっても、VNeIDアプリへのログインを必要とする電子取引に関連して、税務申告または強制社会保険料の納付義務を期限までに履行しなかった場合には、当該義務の履行遅延を理由として処罰を受ける可能性がある。
また、政令168第3条第13項および第12条第5項によると、現在、国家企業登録ポータル上で企業情報の変更登録を行う場合、企業の法定代表者は電子認証手続きを行うか、または企業登録を受けるために、国民身分証明カード、パスポートもしくは外国旅券の写しを添付して提出する必要がある。そのため、企業が早期に企業の電子識別アカウントの登録・取得を完了することにより、当該手続きをより円滑に実施することが可能となる。
2.2.2 企業の電子識別アカウントと法定代表者個人のレベル2電子識別アカウントとの連携の仕組み
・法定代表者個人の電子識別アカウントと企業の電子識別アカウントは、それぞれ完全に独立したアカウントである。しかし、法的性質上、企業は独立した名称および財産を有する独立した主体である一方、自ら行為を行うことはできないため、法定代表者または法定代表者から委任を受けた者を通じて当該行為を行う必要がある。
・政令69第12条第1項によると、企業の電子識別アカウントの発行を受けるためには、法定代表者が自己のレベル2電子識別アカウントを使用してVNeIDアプリにログインし、企業のアカウント発行申請を行うか、または最寄りの公安機関に直接申請書類を提出する必要がある。
この連携の仕組みにより、国家機関は、ある行為について、誰が、いつ、どの端末から実行したかを追跡・確認することが可能となり、一連の責任関係が明確になる。
2.2.3 企業の法定代表者が外国人である場合の電子識別
・企業の法定代表者がベトナム国民である場合にはICチップ付き国民身分証明カードを使用することができるが、外国人である法定代表者はベトナム国民ではない。そのため、外国人である法定代表者の電子識別情報を企業と連携するためには、より多くの手続きが必要となる。具体的には、以下のとおりである。
(i) 企業の電子識別アカウントの発行手続きを行う前に、外国人である法定代表者は、ベトナムにおいて企業を運営するための一時在留カード(TRC)の発行を受ける必要がある。また、これは政令69第7条第2項に基づき、外国人個人の電子識別アカウントの発行を受け、さらに企業の電子識別手続きを行うための条件となる。
この規定は、2020年企業法(2025年改正・補足)第12条第3項において、企業の事業活動を運営するため、少なくとも1名の法定代表者が常にベトナム国内に居住することを企業に義務付けている規定とも関連している。
企業に外国人の法定代表者が1名しかいない場合、当該法定代表者がベトナムから出国する際には、法定代表者としての権利および義務を代わりに履行する者に委任しなければならず、これを行わない場合、企業は政令122/2021/NĐ-CPに基づき処罰を受ける可能性がある。
ただし、法的な委任を行ったことは、被委任者に対してVNeID上の企業の電子識別アカウントを管理または使用する権限が自動的に付与されることを意味するものではない。そのため、企業は、業務が中断されないよう、システム上における適切な権限付与についても併せて検討する必要がある。
(ii) 次に、政令69第11条に基づき、レベル1電子識別アカウントの発行を受けるため、企業の法定代表者は以下の手続きを行う。(1) VNeIDアプリをインストールする。
(2) パスポート番号または国際渡航に有効な書類(出入国許可証)の番号、および電子メールアドレスまたは契約者情報が登録された携帯電話番号(ある場合)を入力する。
(3) VNeIDアプリの案内に従って必要な情報を申告する。
(4) デジタル機器を使用して顔画像を取得し、VNeIDを通じて電子識別・認証管理機関に電子識別アカウントの発行申請を送信する。
(iii) レベル1電子識別アカウントの発行を受けた後、外国人である企業の法定代表者は、引き続き出入国管理機関においてレベル2電子識別の登録を行う必要がある。その際、パスポートまたは国際渡航に有効な書類(出入国許可証)および一時在留カードを提示し、レベル2電子識別アカウントの発行手続きを行うとともに、政令69に定める様式TK01の電子識別票に必要な情報を完全かつ正確に記載する。
(iv) 政令69第12条第1項および第2項に基づき、レベル2電子識別アカウントの発行を受けた後、外国人である企業の法定代表者は、当該アカウントを使用してVNeIDアプリにログインし、外国人法定代表者のレベル2電子識別アカウントと企業との連携および企業の電子識別アカウントの発行についてオンラインで申請する。または、政令69に定める様式TK02の「機関・組織用電子識別アカウント発行申請書」を提出する。
しかし、現時点では、外国人を法定代表者とする企業について、VNeIDアプリ上で電子識別情報を連携し、企業の電子識別アカウントを取得するための具体的な操作方法を詳細に定めたガイドラインは公布されていない。現在のところ、具体的な案内は主として各分野を所管する国家機関の情報ポータル上で公開されている。
参考:https://congan.dienbien.gov.vn/Danh-muc-tin-tuc/huong-dan-dinh-danh-dien-tu-doanh-nghiep-voi-nguoi-nuoc-ngoai-la-dai-dien-theo-phap-luat-tren-vneid-11805.html
2.2.4 企業の法定代表者を変更する場合における電子識別アカウントの利用権限付与および引継ぎ手続き
外国人を法定代表者とする企業の電子識別および電子識別アカウントの発行手続きと同様に、企業が法定代表者を変更する場合における企業の電子識別アカウントの管理・利用権限の付与またはアカウントの引継ぎ手続きについても、現時点では具体的な手続きを詳細に定めたガイドラインは公布されていない。
そのため、本稿における電子識別アカウントの管理・利用権限の付与および引継ぎ手続きに関する分析は、法令の規定および国家機関が公表している案内を参考としている。
(i) 企業の電子識別アカウントの管理・利用権限を付与する場合:
VNeID上で組織にメンバーを追加する方法については、以下の案内を参照することができる。
参考:https://pbgdpl.haiphong.gov.vn/CCHC---Chuyen-doi-so/Cai-cach-hanh-chinh/Huong-dan-ve-bo-sung-cap-nhat-thong-tin-doanh-nghiep-tren-VneID-172248.html
(ii) 法定代表者の変更に伴い電子識別アカウントを引き継ぐ場合:
・ステップ 1: 政令168第43条に基づき、企業の本店所在地を管轄する企業登録機関において、法定代表者の変更登記申請を行う。
・ステップ 2: 新たな法定代表者がレベル2個人電子識別アカウントを登録する。法定代表者がベトナム国民である場合は政令69第10条に基づき手続きを行い、外国人である場合は上記第II部第2項(c)に記載した手順に従って手続きを行う。なお、新たな法定代表者がすでにレベル2個人電子識別アカウントを取得している場合、本ステップは不要となる。
・ステップ 3: 企業の電子識別アカウントの引継ぎを行う。旧法定代表者がVNeIDにログインし、アプリ上で法定代表者の変更申請を行う。具体的な操作については、上記(i)のリンクに記載されている「代表者/法定代表者の変更」に関する案内を参照することができる。
・ステップ 4: 旧法定代表者と連絡が取れない場合、新たな法定代表者が公安機関において、VNeIDアプリ上の手続きに関する支援を受ける。
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